年金代わりの不動産投資のウソとホント
「不動産投資は、私的年金の代わりになりますよ!」というのは、営業マンの鉄板セールストークの1つです。
“日本の年金のシステムが将来あてにならないかも…”という不安を抱える方が増えている今、年金代わりを強調した不動産投資の勧誘が目立ちます。
確かに、私的に年金を準備する方法の1つとして、不動産投資があることは間違いではありません。
しかし、「ローン完済後は、家賃収入がすべて年金代わりに入ってきますよ!」というような話を、100%信用してもいいものでしょうか?
今回の記事では、見定めるべき年金代わりの不動産投資のウソとホントを、お伝えしていきます。
目次
ローン完済後は家賃収入がすべて年金代わりになるのはウソ
結論から述べますと、年金絡みの不動産投資セールストークとしてよく聞かれる、「ローンの完済後は家賃収入がすべて年金代わりになってお得ですよ!」という情報は、まったくのウソです。
この営業マンは、不動産投資の初心者なら気付かないだろうと思って、伝えるべきリスクを伝えていないのです。
不動産を長く運営していくうえでは、本来様々な出費がかかります。不動産の表面利回りだけを見ていては、気付かないポイントです。
まず、想像しやすいのは不動産の修繕リスクです。築年数が経った不動産は、屋根の防水工事や外壁塗装、内装リフォームなど、やらなくてはいけないことがたくさんあります。
仮に35年のローンを完済して、家賃収入が入ってくる状態になったとしても、その家賃収入から不動産の修繕費用などを捻出しなくてはいけません。
築年数が経ったお部屋は、基本的に家賃を下げなくては入居者が確保できず、それでも空室が続く時期もあります。そこに大幅な修繕・修理のタイミングが重なれば、家賃収入だけでは支払い切れず、手出し費用が必要になるケースすらあるのです。
つまり、少なくとも不動産投資ローン完済後の家賃収入が、そのまま自由に使える年金代わりになることはあり得ないのです。
不動産投資が年金代わりになると考える前に知るべき3つのこと
- 日本の少子高齢化問題
- 都心回帰現象による地方の人口減少
- 老後に必要な資金はどのくらいか
私的年金を準備することが目的で不動産をはじめるなら、少なくとも上記3つの情報を知っておくべきです。
以下でそれぞれ、簡単に説明していきます。
【1】日本の少子高齢化問題
日本の少子高齢化問題が現状どうなっているのか、そしてこれからどうなっていくことが推測されているのか、把握はしていますか?
結論から述べると、日本の高齢化問題および人口の減少は、今後さらに深刻になると推測されています。
一説では、2050年までに人口が3,000万人減り、残った人口の高齢者率が4割を越えるとまで言われているのです。
現状でも地方のマンション・アパートには人が集まらない傾向がありますが、今から不動産を購入してローンが支払い終わる頃には、さらに人を集める(空室を埋める)ことが難しくなっている状況だと考えられます。
人口が減っても影響しにくいエリアはどこなのか、高齢者にも需要がある物件はどんな物件かなど、目先のことではなく30年後40年後のことを考えた物件選びのために、日本の少子高齢化に関する情報の把握は必要不可欠です。
【2】都心回帰現象による地方の人口減少
先述した日本の少子高齢化問題から生ずる、地方のさらなる過疎化にも少し関係しますが、今の日本では”都心回帰現象”が起こっていることを知っておくべきです。
都心回帰現象とは、地価の下落などを理由に都心部の人口が増加する傾向のことを指します。
特に、都心回帰現象として人口の増加が顕著に表れているのは、東京23区内・愛知県名古屋市・大阪府大阪市などの主要都市です。
逆に、バブル期ごろまでは人気のあった郊外エリア、いわゆる「ベッドタウン」の人口は減少傾向にあります。これには単身世帯の増加に伴い、居住環境よりも通勤の利便性を重視する方が増えているなどの背景があると見られています。
郊外では、駅徒歩5分圏内などごく限られたエリアに主要施設を集める動きも出ているため、今の所は安定した賃貸需要があるエリアが、30年後40年後にまったく需要がなくなる可能性を考慮しなくてはいけません。
【3】老後に必要な資金はどのくらいか
実際、老後にゆとりを持って暮らしていくためにどのくらいの資金が必要になるのか、分かっていない方が意外と多いです。
老後に必要な資金については諸説あり、断言が難しいのですが平均的な収入・支出で暮らしてきた老夫婦の場合、「少なくとも3,000万円は必要だ」という意見が目立ちます。
元気な間はずっと働くつもりだから2,000万円くらいでも大丈夫だろう、退職金をたくさん貰えるので1,500万円でも大丈夫だろう、と個人により様々な事情があるとは思いますが、親族の急病などのイレギュラーな出費に備えて、やはり最低でも3,000万円は必要と見ていいでしょう。
もちろん、さらにゆとりのある老後生活を目指すなら、4,000万円・5,000万円といった高めの貯蓄目標を立てなくてはいけません。
ただ肝心なのは、“不動産投資を行うだけで老後の生活に必要な資金を作れるのかどうか”という点です。
不動産投資の特性上、定年までに老後の資金を溜め切る必要はありませんが、あくまで”投資”である以上、途中で収入がなくなるリスクが常につきまといます。
定年後も安定した家賃収入が入ってくるつもりで、老後に必要な資金を貯める計画を立ててしまうと、所有不動産に万が一のことが起こった場合に、資金調達の計画は大きく崩れてしまいます。
“どれほどの老後資金を貯めるために、どんな物件を選ぶべきなのか”、独学で突き詰めることが難しいようなら、不動産投資の専門家の手を借りてでも、明確にしておく必要があるでしょう。
年金代わりにならない不動産投資と年金代わりになる不動産投資
ここまで述べた内容を踏まえて、「私的年金を作りたいがために、不動産投資を行うのはリスクが高すぎるのか…!」と思われている方が多いかも知れません。
しかし、記事の冒頭でも述べたように、一概にそうとは言い切れません。
実際に、ゆとりのある老後生活を送ることを目指して、うまく不動産運用を行っている方が多くいらっしゃるのです。
老後の生活資金を潤沢にすることが目的の不動産投資を成功させるには、「年金代わりにならない不動産投資の仕方」と「年金代わりになる不動産投資の仕方」を区別し、理解する必要があります。
年金代わりにならない不動産投資の仕方
- 地方マンションやアパートへの投資
- サブリースに頼った投資
- 家賃収入が丸ごと年金になると推してくる投資不動産販売会社からは購入しない
ここまで述べてきた内容で想像できるかもしれませんが、30年後・40年後の価値が下がりやすく、家賃収入が安定するかどうか怪しい、修繕費用ばかりがかさむおそれのある地方マンションやアパートへの投資は、年金の代わりとして得策とは言えません。
また、サブリース(家賃補償)に頼った不動産投資も、年金代わりになるとは言い難いです。サブリースは不動産の価値が下がれば補償額が下がったり、サブリース自体が打ち止めされたりするケースがあるため、当てにしない方がいいでしょう。
ちなみに、年金代わりの不動産投資とは少し話が逸れますが、年金代わりにすることと合わせて、相続税対策の目的で不動産投資をはじめる方もいらっしゃいます。
現金を不動産に換えて相続に備えることが、節税になることは事実なのですが、不動産は現金のように簡単に分割できるものでは無いため、不動産を受け継いだ家族が揉めてしまう可能性があります。
「資産を不動産に換えてひと安心」するのではなく、家族全員が納得いく形で、不動産の相続に関する話し合いをするべきでしょう。
年金代わりになる不動産投資の仕方
- 頭金を多めに入れてローンの借入額を減らし、ローン利息も減らす
- 繰り上げ返済を行いローンの残債を減らして、ローン利息も減らす
- 売却タイミングを見逃さない
できるだけ多く、不動産投資で年金代わりの利益を得るためには、ローンの利息を減らす方法がないか探すことが1つのポイントです。
単に金利が低い金融機関を探して、審査に通るか試してみることも有効ですし、不動産を購入してからでも、繰り上げ返済をするなどしてローン利息を減らす、つまり月々の支払い金額を減らして手元に残るお金を増やす方法もあります。
また、築年数の経過や周辺環境の変化で物件の価値が下がり、その後も物件価値が上昇する見込みがないなら、損失が大きくなる前に、物件を早く売却してしまうのも手です。
地方マンション・アパートでは難しいかもしれませんが、キャピタルゲイン(売却益)が得られる可能性があります。
年金代わりになる不動産投資を行うならリスクの低い不動産を選ぼう
以上、「年金代わりの不動産投資のウソとホント」についてお伝えしました。
つまるところ、ローン返済後の家賃収入がそのまま年金代わりになることは真っ赤なウソですが、物件を慎重に選び、そして慎重に運用すれば、年金と同じような定期的な収入が入ることはホントです。
不動産投資による収入を「年金代わり」と期待するのではなく、「年金の上乗せ」と捉えるほうが、的確かも知れません。
私的年金を準備することを目的に不動産投資を行うなら、都心型ワンルームマンションのような、人口減少の影響を受けにくく、資産価値も下がりにくいためキャピタルゲインを狙いやすい物件に狙いをつけることを推奨します。